帰国生や外国籍生への日本語支援は、「個人任せ」から「公的な指針に基づく支援」へ移行しています。近年は、文部科学省や研究機関が「学習言語」=教科で使う日本語の評価枠組みを整備し、入学後の学びを見通しやすくなりました。これは公立中高一貫校の適性検査(資料読解→条件整理→記述)と直結する動きでもあります。本稿では、公的資料の要点を整理し、家庭・塾が“比較・説明・根拠提示”を意識して準備できる実務ヒントを解説します。
ニュース概要――何が整備され、何が“見える化”されたのか
ここ数年、文部科学省と国立教育政策研究所(NIER)を中心に、言語背景の多様な子どもに対する日本語支援の基盤整備が相次ぎました。核となるのは、教科学習と日本語を統合して扱うJSLカリキュラムの位置づけ、段階的な日本語力の記述と測定を支えるDLA(対話型アセスメント)関連の仕組み、そして高校段階を含む日本語指導のガイドラインや事業の体系化です。ポイントは、支援の可否や善し悪しではなく、どの段階の言語力に、どんな学習言語(教科で使う日本語)を重ねていくかを、共通の物差しで語れるようになってきたことにあります。
何が変わる?——受検準備と入学後学習の“設計”が現実的に
評価の可視化によって、受検準備は「語彙強化だけ」でも「過去問演習だけ」でもなく、教科で必要となる学習言語(説明する・比較する・根拠を示す等)を段階的に積み上げる設計へと移ります。これは、公立中高一貫の適性検査の本質(資料読解→条件整理→記述)とも親和性が高く、支援の狙いと入試の狙いが重なる領域が広がるということです。入学後も、JSLの考え方に基づく教室内支援や、教科横断的な言語課題の明確化によって、つまずきの地点を早期に見つけ、補助線を引く作業がやりやすくなるといえます。
仕組みの中身をやさしく解説
JSLカリキュラムは、教科内容の理解と日本語の習得を同時に進める「内容と言語の統合学習」です。日本語はゴールではなく、学ぶための“道具”。たとえば理科なら、観察→比較→因果説明という教科の思考プロセスに必要な日本語表現(比べる・説明する・根拠を示す)を、授業活動の中で使いながら育てます。DLAは、こうした学習言語を段階(ステージ)で捉える評価の枠組みで、読む・聞く・話す・書くの技能を、教室での学びに結びつけて見取り、次の学習につなげる設計になっています。
受検生・保護者への実務アドバイス
制度が整っても、日々の準備に落ちないと成果は見えません。まずは、志願先の募集要項や学校サイトにある「日本語支援」「支援体制」「多言語対応」などの記載を確認。つぎに、家庭では“学習言語のミニルーブリック”を作って、短い説明文やグラフ読み取りの練習に使います。例えば「比較の日本語(共通点/相違点)」「根拠語(なぜなら/〜だから)」などの言い回しを、週1回の小テストで反復。適性問題の記述は、言語機能のテンプレートを持つだけで、答案の骨格が安定します。

塾・予備校関係者への注目点
帰国生や外国籍生の受検では、「学習言語の力」=適性検査の得点源です。塾・予備校が「比較・説明・根拠提示」の言語機能を意識した指導を仕組みに組み込むことで、入学後の学びにつながる準備を家庭と共有できます。
1)日本語支援ニーズ診断+併走カリキュラム
入塾時に“日本語の段階”を簡易に測るチェック(語彙ではなく機能ベース)を実施。結果に応じ、通常カリキュラムに「学び直し×適性対策」の言語機能ドリル(比較・説明・根拠・要約)を週1コマ並走させます。教材は既存の適性対策を“言語機能タグ”で再編集すれば流用可能。
2)記述答案の言語参照枠
採点観点に、内容(事実の正確さ)と同列で言語機能(比較できているか、論の接続は適切か)を加点する“言語参照枠”を導入。多言語背景の生徒にも、何を直せば点が上がるかが伝わりやすくなります。
3)学校連携の可視化
説明会レポートや学校研究ノートに、「日本語支援の窓口/支援の場(授業内・別室)/移行の考え方」の3点を定型で掲載。ご家庭の不安軽減と、志望動機の形成に直結します。
よくある誤解と注意点
「日本語力が足りない=受検は無理」という短絡は禁物です。段階評価の強みは、伸ばすべき“次の一歩”が明確になること。比較表現が弱いなら比較、根拠提示が弱いなら因果接続、といった具合に、適性検査の言語要求と支援の焦点は一致します。また、JSLは“別室で日本語だけ教える”仕組みではありません。教室の学びに必要な日本語を、教科と統合して鍛える発想です。入学後の支援体制は自治体・学校で差があるため、必ず一次情報の確認が必須です。
まとめ
評価の可視化が進んだ今、帰国生・外国籍生の受検準備は“語彙の暗記”から“学習言語の設計”へと重心を移すべきです。比較・説明・根拠提示といった言語機能は、適性検査の得点源であり、入学後の学びの土台でもあります。ご家庭は支援体制の一次情報を確認し、短文スクリプトで言語機能を週1回反復。塾は言語機能の簡易診断を起点に、学び直し×適性対策の併走カリキュラムを提供しましょう。大切なのは、“何ができて、次に何を伸ばすか”が見える状態を保つこと。評価指針の整備は、そのための地図です。地図を手に、焦らず、しかし着実に前へ——それが、公立中高一貫での学びを本当の意味で支える道筋になります。

【焦り】 過去問を探す時間が足りず、演習が後回し。
【解決】 登竜問なら毎年追加される問題を条件検索し、
Word でレイアウト調整→即プリント。“探す” 時間がゼロになります。
今の指導に不足している問題タイプもすぐ手に入ります。
参考・出典
- 文部科学省「外国人児童生徒等への教育の充実」—制度・事業全体の枠組み(日本語教育含む)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/008.htm - 国立教育政策研究所(NIER)「JSLカリキュラム資料ページ」—内容と言語の統合学習の基礎資料
https://www.nier.go.jp/kokusai/jsllinks/jsl-curr.html - JSL DLAポータル(開発・研修・参照枠関連)—段階評価とアセスメントの基盤
https://jsl-tt.nier.go.jp/ - 文部科学省「児童生徒の言語能力の育成(学習言語)」—学びに必要な言語の整理
https://www.mext.go.jp/content/20221031-mxt_shuukyo02-000025204_06-1.pdf - 文部科学省(生活者としての外国人日本語教育事業・高校段階関連資料の一部所収)—2024–25更新資料
https://www.mext.go.jp/content/20240827-ope_dev02-000037780_5.pdf - 参考講義資料(教科と日本語の統合/JSLカリキュラムの導入時期)—東京学芸大・研修資料
https://kodomonihongo.u-gakugei.ac.jp/.assets/C23_kenshuT3_kougi.pdf
※本記事は上記の公的資料に基づき、「評価指針の明確化が進む」事実関係(JSL・DLA・ガイドライン整備の継続)を要約しました。最新の適用や自治体・学校の運用は公式発表(学校・教育委員会)で必ずご確認ください。