はじめに
近年、社会や教育の現場で「探究学習」が注目を集めています。これは生徒が自ら問いを立て、現実の課題に向き合うことで主体性と問題解決力を育む学習方法です。中高一貫という利点を活かし、中学段階では、学校側が指定した課題に取り組むことで、調査や研究方法の基礎を学び、高校での自己設定したテーマの調査研究を行う過程へと繋げていきます。特に中学段階では、地域資源や社会問題を題材にした探究活動が行われるケースも存在します。学校によって探究学習の基礎となるテーマが異なるため、自分にあった探究活動を行っている学校を探しましょう。
本記事では、探究学習の目的や効果に触れながら、公立中高一貫校での実践事例を詳しく紹介します。この事例を通じて、探究学習がどのようにして生徒の主体性や創造力を引き出し、未来の社会で活躍するためのスキルを養うのかを解説します。ぜひ最後まで読んで探究学習の魅力と可能性を感じ取ってください。
探究学習の概要
公立中高一貫校で実施されている探究学習は、生徒が主体的に考え、現実の課題に対処する力を養うための教育活動です。この学習形態により、学習者は自ら課題に取り組み、問題解決に向けたプロセスを体験することで、思考力や判断力、表現力を高めていきます。ここでは、探究学習の定義と特徴、プロセスについて詳しく見ていきます。
探究学習の定義と特徴
探究学習とは、生徒が自らの関心をもとに課題を設定し、情報収集や分析、意見交換などを通じて解決策を導き出す学習活動です。従来の暗記型の学習とは異なり、以下のような特徴を持っています。
- 生徒自身が問いを立てる:教師から与えられた課題ではなく、生徒自身の疑問に基づいて問いを設定することで、学習に対する主体性を高めることが目的です。たとえば、身の回りの環境問題に関心を持ち、「地域のごみ問題」に注目をしていた生徒が、調査の過程で別の内容に興味を移す場合も存在します。「カラスや山林の動物による獣害」や「リサイクル製品の生産過程での労働問題」などの最初の疑問から発展した課題に興味を持つことで、より幅広い視点で物事をとらえられるようになります。
- 教科の枠を超える学び:探究学習では、生徒の興味関心に伴い、社会、科学、数学など複数の教科にまたがるテーマが扱われるケースも存在します。教科の枠を超える学びが行われることで、幅広い視点から物事を考え、より包括的な理解を深めることが可能になります。
- 長期的かつ深い学び:中学の段階で研究のための基礎的な研究や調査方法を学び、高校での個人研究に移行するため、自分が興味を持っている分野へのアプローチをしっかりと学ぶことができます。表面的な内容だけでなくより多くの視点からの調査ができるので、より深い探究を勧めることが可能です。この過程で、生徒はより多くの視点からテーマに向き合い、最終的に社会における問題解決のアプローチを学ぶことができます。
- 協働的・対話的な学び:探究学習では、他の生徒や教師との意見交換が重要な要素です。自らの研究発表への反応を通じて、自分とは異なる視点や意見に触れることができ、それが自己の視野を広げ、柔軟な思考力を養うきっかけとなります。
探究学習のプロセス
探究学習は、以下のプロセスを通じて進行します。このプロセスを繰り返すことで、生徒の問いや課題の質を高め、学びを深化させていくことを目指しています。
- 課題設定:生徒自身の興味関心に基づいて課題を設定します。中学校では、自分の興味や関心を調査する基礎を培うために、学校が設定した課題に取り組むことが多くなっています。
- 情報収集:設定した課題についての情報収集を行います。書籍やインターネット、インタビューなどを行い、必要な情報を収集します。中学校では、書籍やインターネットの情報収集やインタビューなどの基本を学び、その情報の信頼性や有用性の確かめ方を学びます。
- 整理と分析:収集した情報を整理し、分析を行います。データをグラフや表にまとめたり、集めた情報の中から関連性のある内容を見つけ出す作業が含まれます。学校によっては中学~高1にかけて、実践的な内容を交えながらデータ分析の基礎を学びます。
- まとめと表現:最終的に、自らの結論や提案を導き出し、他者に伝える形で発表します。自分たちの研究成果をプレゼンテーションやレポートとしてまとめる過程を通して、更に理解を深めることができます。また、発表後の他者からのフィードバックを通し、新たな視点や改善点を知ることで更なる学びの発展につなげていきます。
中学校では、学校が指定した課題について取り組んだ成果を発表することで、このような経験につながる学びを提供しています。
中高一貫という利点を活かし、6年間を通じた調査研究方法を学ぶカリキュラムが設定されています。また、学校によっては、高2からの本格的な自己設定した課題に備え、高校1年までの期間を調査研究のための基礎に充てている学校もあるため、自分に合った進め方の学校を選ぶことも重要です。
探究学習の目的と効果
探究学習は、生徒の思考力、判断力、表現力といった総合的な力を育むと同時に、未来において必要となる多様なスキルの基礎を提供するものです。以下に、探究学習の具体的な目的効果について詳しく解説します。
思考力・判断力・表現力の育成
探究学習では、生徒が自ら課題を設定し、情報収集、分析、考察を行うプロセスを通じて、思考力や判断力が育まれます。さらに、得た情報を他者にわかりやすく伝える表現力も向上します。教科の枠を超えた総合的な学びを実践することで、知識を実社会の問題解決に応用するスキルが身につきます。このような力は、変化の激しい現代社会において必要不可欠な能力といえます。
主体性と課題解決能力の向上
探究学習は、生徒が自ら問いを立て、それに対する答えを見つけ出すことを奨励します。試行錯誤を重ねる中で、主体的に学ぶ姿勢や粘り強さが養われ、課題解決能力も高まります。このプロセスを通じて得られる実践的なスキルは、学校生活だけでなく、社会生活や職業選択においても大いに役立ちます。
学習面での効果
探究学習は、教科横断的な学力の向上に大きく寄与します。従来の学習が教科ごとの知識の蓄積に重点を置いているのに対し、探究学習では各教科の知識を統合し、実際の問題解決に活用するスキルが重視されます。このため、各教科における理解がより深まり、総合的な学力向上にもつながります。
また、探究学習を通じて情報リテラシーも向上します。生徒はさまざまな情報源から必要なデータを収集し、それらを整理・分析する能力を養います。これにより、単なる知識の吸収にとどまらず、情報の真偽を見極め、正しい情報を効果的に活用するスキルが身につきます。長期間かけて自らの課題に取り組むことは、持続的な学習意欲と深い理解を生むため、長期的な学習の基盤となります。
個人の成長とキャリア意識の醸成
探究学習は、個人の成長にも多くの効果をもたらします。自らの力で課題を解決する経験を積むことで、自信が育まれ、学習に対するモチベーションが高まります。例えば、何度も試行錯誤を重ねて課題に取り組むことで、自分の成長を実感し、さらに次の挑戦に向かう意欲が生まれます。
さらに、他者と協働しながらプロジェクトを進めることで、コミュニケーション能力も向上します。他者の意見に耳を傾け、自分の考えを伝える過程は、社会に出てからも必要とされるスキルです。また、社会問題をテーマに取り組む中で、将来の進路や職業について考えるきっかけが得られ、キャリア意識が醸成される効果もあります。
高等教育やキャリア形成に向けた準備
探究学習の経験は、高等教育への円滑な移行にも寄与します。大学での学びは、自ら課題を見つけ、解決策を探求することが求められるため、探究学習で身につけたプロセスは、大学での研究活動にも生かされます。このため、探究学習の経験は、将来的に中学だけでなく高校以降のキャリアにおける自己実現にもつながります。
また、近年では大学の選抜方法においても、探究心や主体性、表現力を評価する動きが増えています。探究学習の経験は、自己を表現する場面でも生かされ、特に自分の言葉で考えを述べる力が重要視される場面で大いに役立ちます。
公立中高一貫校における探究学習は、学習や個人の成長、将来の進路においても多くの効果をもたらす重要な教育プログラムです。
公立中高一貫校での実践事例

公立中高一貫校における探究学習は、生徒が主体的に現実社会に関わり、社会問題に対して独自の視点で解決策を見出すための重要な教育活動です。ここでは、具体的な実践例を紹介し、それぞれが生徒に与える効果や意義について詳しく解説します。
身近な地域資源をもとにした探究活動
宮城県古川黎明中学校・高等学校では、地域の農業遺産「大崎耕土」をテーマとした探究活動を行っています。大崎耕土とは、学校のある大崎地方にて古くから親しまれている水田地帯です。生徒たちが小学校から学んでいる身近な地域社会を題材としたフィールドワークを行うことで地域のつながりを重視した探究活動が行われています。
探究活動の過程では、生徒たちが課題発見から仮説設定、検証までを段階的に進めるために、学習の過程での「気づき」「問い」「確かめ」を繰り返す探究サイクルを重視しています。例えば、農地の水質や土壌環境について調査し、それに基づく農業の改善提案を行うなど、学びの成果を地域社会に還元する機会が設けられています。このような取り組みを通じて、地域の歴史や自然環境を踏まえた課題解決に向けた主体性や協働力を養っています。
地域と共に学ぶことをテーマにした内容
東京都立大泉高等学校附属中学校では、中高6年間を通じた系統的な探究活動である「大泉ソーシャルイノベーションプログラム」が実施されています。
中学では、個人での調べ学習やグループでの社会活動に対する探究活動を実施し、日常のくらし、地域や社会課題に目を向けた体験型学習が行われています。具体的な事例としては、練馬区を舞台にした探究活動を通し、探究の基礎や基本を学ぶ活動が挙げられます。なお、高校では1人1人の興味関心に則った探究活動に移るため、自己の興味関心を深堀する課題探究が行われる予定です。
また、3学期になると、探究活動の成果を発表する場として「OIZUMI AWARD」が開催され、中学1年から高校2年までの生徒たちが集まり、それぞれのテーマの発表を行います。広い世代からの意見を募る機会が与えられるため、より深い探究活動に繋げることが可能です。
東京都立大泉高等学校附属中学校の「探究活動」は、練馬区を舞台にした活動を通し、探究の基本や基礎を培います。中学と高校の交流を重視した探究活動を行うことで、内容の発展や中学から高校にかけての学びの接続に結び付けています。
このように、公立中高一貫校における探究学習の実践例は、地域資源などのテーマを通じて、生徒が自らの関心や興味を軸に現実の課題に挑む機会を提供しています。生徒たちはこれらの活動を通して、思考力や判断力、表現力といった重要なスキルを育みながら、実社会に直結する実践的な学びを体験しています。
まとめ
探究学習は、生徒が自ら問いを立て、社会問題や身近な課題に向き合うことで、実践的なスキルと主体性を育てる教育手法です。公立中高一貫校には、生徒が現実世界に即した課題に取り組むことで、思考力や判断力、表現力を養っている実践例が多数あります。地域資源をテーマとした探究活動やプロジェクト、地域課題との関連づけなど、学校ごとに多様な活動が行われており、それぞれが生徒に異なる視点と成長の機会を与えています。探究学習を通じて生徒が主体的に学び、社会に貢献する力を身につけることが、未来の教育における重要な目標となっています。公立中高一貫校への進学をご検討の際は、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。